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こんなことをしている場合ではないのだ。
晴香はスマホを起動させ〝完全殺人アプリ〟を起動させる。
『残り22時間』
画面は無情に告げてくる。自分が殺される時間を。
晴香は電気を消したまま、ベッドの脇にへたりこんだ。黒髪を両手で鷲掴みにして、身体を丸めた。
叫びたくなる自分を必死に押さえつけながら彼女は
「落ち着け」
繰り返した。
冷静になって一連のことを考えてみる。
そう、この時点で少女は初めて、この不可解なアプリのこと、死んだ三人のこと、自分のしたことを考えたのだ。
そもそも、あの三人はいじめをしていたとはいえ殺されるほどのことをしたのだろうか。
「しょうがないじゃない! ああしないといつか私が死んじゃうんだ」
そこまでのいじめだったのだろうか。
世間にはもっとひどいイジメをうけて、けれどちゃんと生き延びて、まっとうに生活している人だっている。
「ダメよ、違う、それじゃない。今考えないといけないのはそんなことじゃないのよ」
晴香は爪を知らずに爪を噛んでいた。
「落ち着いて落ち着いて落ち着いて」
三人が一体誰にどうやって殺されたのか?
その謎を解かなければならない。そうしなければそれがもうすぐ自分の命を奪いにくる。
このアプリは何なのだ?
三人は一体どうやって殺された?
誰に?
私に?
いや、私じゃない。私だけど私じゃないんだ。私に物理的にあの三人を殺すことなんて出来なかった。じゃあ、誰が? どうやって?
美羽は施錠されたコンビニのトイレの中で殺されていた。
友紀は車に轢かれて死んだ。
奈々は自分の部屋で殺された。
自分の……部屋で?
晴香は急に恐ろしくなって自分の部屋を振り返った。
いつの間にか夕方になり、部屋は茜色と黒の二色で塗りつぶされていた。
洋風の六畳間がいつもより広く見える。
壁に投げつけたぬいぐるみが恨めしそうに彼女を見ていた。
ぴったりと締め切られたクローゼットから人の気配らしきものを感じてしまう。
ベッドの下はせまいが人一人ぐらいなら隠れられる。
机の引き出しも、窓も、天井も!
その時、誰かが少女を呼んだ。「晴香」
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