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教室内で男子もいるというのに、大声で「処女!」とバラされたのだ。二人は冗談半分に言ったんだと思う。
しかし、当の本人は恥ずかしくて堪らなかった。恥ずかしくて死にたくなった。
そんな彼女の感情を敏感に察してか、晴香の机を地雷のように囲むもう一人の女子が言った。
「晴香ちゃあ~ん」
慣れ慣れしい甘い声だった。肩ぐらいで揃えた茶色のボブは、華やかさがないが一番毒々しく、最も陰湿だった。
「怒んないでよォ。うちらダチぢゃん?」
「そーそー」
ピンクの髪―由紀がネイルを見ながら言い、
「マブマブ」
奈々が巻き髪を手の平で持ち上げながら頷いた。
「でしょ?」
そしてブラウンの髪をかきあげ、美羽(みう)が止めを刺してくる。直接頭を抑えつけられているわけじゃないのに、マスカラの載った大きな目は威圧的で、晴香の伸びただけの、長い黒髪を抑えつける。
「う、うん」
頷くしかなかった。
本当は
友達なんかじゃない
と言いたかった。本当の友達は、なけなしのお小遣いで化粧品を買わせて、一振りほど(それもはんば強引に)使わせて、ほぼ新品の残りを無理やりとっていったり、突然下腹を蹴っておいて後日「ごめん、生理だったからさぁ、マジいらいらしてて」なんて毎月してこない。
そして本当の友達なら勝手に人のスマホを見たりしない。
「あっ」と、隙を見せた途端に美羽は晴香のスマホを取り上げていた。
「どれどれ……?」
美羽は細い唇の端を持ち上げて、
「なんも映ってないじゃない」
つまらなさそうに言った。
それもそうだろう。画面は〝完全殺人アプリ〟のリンクを開いたまま、つまり、『お探しのページは見つかりません』のままだ。
「なに探してたの? バック、バック……」
「やめてっ!」
晴香は咄嗟に手を伸ばした。ブラウザのバックボタンをタップすれば某掲示板へ戻ってしまう。完全殺人アプリ。そんなアプリを調べてたなんて知られたら、何をされるかわからない。加害者ほど被害者意識が強い。
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