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チョコをついばむように
スマホが壊れていないか気になって、晴香は授業に集中できなかった。
そんな彼女の時間を秋空はあっさりと奪う。
あっという間に授業は終わり、放課後になり、晴香は自転車を立ってこいで家に帰った。
「そんなに慌ててどうしたの」
母が驚いて言ったが、晴香はもちろん、本当の理由を言わなかった。スマホが壊されたかもしれない、と言えば心配をかけてしまう。
「な、なんでもない。ちょっと早く終わっただけだよ」
晴香は逃げるように階段を登り、自室に飛び込んだ。後ろ手に鍵を掛け、カバンからスマホを取り出す。液晶にヒビは入っていなかった。
ホームボタンを押すと、画面は黒いまま沈黙し、やがて見慣れた壁紙が浮かび上がった。
「あぁ、良かったァ」
安堵のあまり晴香はベッドにどすんとへたりこんでしまった。
ハァ、と安堵の息を漏らすと、不安は怒りにとって代わる。ふつふつと怒りが湧いてきて、晴香はギュっと唇を噛みしめた。
大事なスマホを無造作に、ゴミを捨てるように放り投げるくせに「友達でしょ」とのたまう美羽が許せなかった。そして、あんなことをされて何もできなかった自分にも腹が立った。
情けない。
体育の授業でもないのに、膝に顔を埋めて晴香は泣いた。母親に気付かれないよう声を押し殺して。しかし、それも腫れた目を見つけられたらバレてしまうだろう。
晴香は顔を上げ、涙で滲む目で、念のため、故障しているところはないか、とスマホをチェックしてみた。暗証番号をすばやくタップして、ホーム画面を出すと、見慣れぬアイコンがあることに気付いた。
「何かしら? これ」
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