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赤い果物―リンゴのアイコンである。
それは赤いハートにも見えたが、まったくもって恋の前兆を欠いていた。どちらかといえば、悪意を感じるほどだ。もしかしたらマッキントッシュ社のロゴかも、と思ったが、あそこのリンゴは一部欠けている。
よく見るとリンゴの下には文字があった。
『完全殺人』
「えっ!?」
と彼女はベッドの上で上半身を起こした。もちろん、彼女にダウンロードした心当たりはない。掲示板に張られていたURLはリンクが切れていたはずだ。
まさか。
と思った。でも、もしかしたら、落とした衝撃で変なボタンを押してしまったのかもしれない。スマホが落ちたとき、液晶が赤くなっていたことを思い出した。
リンゴのアイコンが誘っているように見えた。
それは涙で濡れた目のせいだったのかもしれない。あるいは、美羽が落として画面がおかしくなったのかもしれない。
ならば、これは運命なのだろう。
晴香は導かれるように震える指先で禁断のリンゴに触れた。
……
…………ジジ
………………ジジジ
スマホを持つ左の手の平で、何かが廻っているような感触を少女は覚えた。その回転は運命の歯車のように彼女の中身を吸いこんで変質させていった。高速回転する洗濯機が水分を飛ばすように。
『インストール済み』
やがて回転は止まり、画面にインストール終了を告げるメッセージが表示された。
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