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壱 電視の憂い
風の間──宵の口。
吾輩が目覚めたということは是即ち『互いを偲び、今が目交いの潮合いと思い做したる者らが粘膜接触、或いは其れに準ずる行為を此れにて及ばん』との勇み、程なく此処に現る証左。結構なことじゃないか。少子化に喘ぐ我が国を、閨事に喘いで救おうというのだ。其の者たちの立派をまずは称えたい。明日の日本のために是非とも濃ゆい夜を性交……もとい、成功させて頂きたいもの。吾輩は自らの顔に『大相撲秋場所九日目』の模様をだいじぇすとにて纏めた映像を流し、志厚き益荒男と手弱女を待つことに……む? 早速、参られたか。
益荒男の志士は単身、である。意味が解せぬ。未曾有の危機に瀕している我が国の現状を此の男は弁えておるのであろうか。何やら訝しい振舞。ほう、此処で素摩歩を抜くか。
「部屋に入りましたよ。風の間です。早めでお願いします」
志士よ。某は何と企むか。大和の行く末を真剣に慮られよ。
遠隔操作で吾輩の顔色をぱっぱと変えていく志士。平成生まれ初の三役の活躍ぶりにはどうやら興味がないようである。うむ、まあ善い。半畳程の吾輩の顔で大写しになっている裸身の娘も、ともすれば吾輩自らが含羞の顔色を浮かべていると取られかねないが、其れもまた、善しとする。精々媚薬の代わりとするが善い。部屋に設えられた玩具のような電話が鳴る。志士が其れに応じると、俄、呼び鈴が鳴るではないか。某も逢引きとはまた味な真似を。
「お客さん、今夜の口開け。マイ、嬉しいから、うんとサービスしちゃう」
「いくら?」
「六十分イチハチ、九十分ニーゴー。先でお願いしま~す」
客とな? さあびす? いちはちにいご? 手前どもは何を申しておるのだ。
「一応確認するけど、キミは本番オッケーなんだよね」
「そこはオトナのお付き合い♪ あと、マイって呼んで」
「オトナのそれっていうのは本番のことだって、お店の人はいってたけど違うのかい?」
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