壱 電視の憂い

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 吾輩は目下、悲しい子持ち……もとい、心持ちである。何が大人のお付き合いか。まいなどと呼んでたまるものか。互いの肢体を絡めて交接に及んでいる男女を、我が顔貌(がんぼう)一杯に映し出しておいてなんだが、此の明らかに非生産的な営みを(たばか)(たわ)けどものせいで、吾輩の誘電体層は超絶深刻な事態を引き起こし掛けている。結露による漏電が心配でならん。ええい、涙よ。止まらんか! 「もぉお客さん、野暮~い」  淫売は戯けのすらっくすへ手を掛けるが早いか其れを脱がし取り、返す刀で今度は自らの赤肌を晒け、あまつさえ其の股間にぺぺなる滑液をなすりつけた。戯けを床へと押し転がし、其の腰へ跨がると淫売は恍惚とし、身悶えした。 「あん♪」 「あはは。入っちゃってるけど」  淫売が戯けに腰を使いながら諸手で『ちょうだい』とやる。 「なに?」 「やだもぉ、お金~。お店からシステム聞いてないんですか~」 「キミと性交するにはお金が要るの?」  戯けどもは閨房(けいぼう)にて執り行う其れを何と心得ておるのか。此の吾輩の憂い……(うぬ)ら一体……一体どうしてくれるのだ! 時にまいとやら、お前などさっさと閉経してしまえ!  吾輩は沙羅双樹の華を千切りたくなった。祇園精舎の鐘を殴りたくなった。仮初(かりそ)めの情事。泡沫(うたかた)の邪淫。斯様(かよう)な色沙汰に耽って喜んでおる此の戯けどもが、大和の民などであるはずがない。此の者ら──否、ふしだら淫らな鬼畜どもは、日本人の皮を被ったじゃぱん人だ! 「当たり前~。そゆこといってると怖いお兄さん呼んじゃいますよぉ。払うもの払って、マイとすっきりしよ♪」  もう勝手にやれば善いのだ。どうにでもなって亡国への(みち)をひたすらと歩めば善いのだ。吾輩は(おの)が顔で仰け反っている、みずなれいちゃんの甘く切ない睦声(むつごえ)を、音量ばあにして五つほど盛り、産声を上げることすら適わなんだ心の(うち)のめらんこりいを、彼女の其れに混練した。 「うん。じゃあ、アウトね」  あうと。何があうとか。ふふん……()てはじゃぱん人、果ておったな。ぷっ。 「やだ~お客さん、嘘ばっかり~」
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