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戯けが着けた侭であった上衣の懐より何某かを取り出す──手枷。何故に然様なものを……ははあ、承知。此の戯けめは責め苛む類の色を好む淫奔であるか。と其のとき、淫売の膝小僧右前に転げている、花形のこぢんまりした鋳物を吾輩は認めた。旭日に菊をあしらった記章──秋霜烈日。此の者、司直の官吏か。
「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律違反。これ、逮捕容疑。俗にいう風営法ってやつね。わかるかな? マイちゃん。ちなみに現行犯逮捕♪」
交接の態其の侭、凜々しくも厳めしい面持ちを保つ戯け──もとい、司直の者。風の間に、どどっと人が雪崩れこんでくる。
「マイ、蓄膿症だからわかんな~い」
情熱的な腰使いを続けながら嗚咽する鼻詰まりの淫売。斯様な生業で暮らしを立てておるなら淫売、否、まいとやら。鼻腔の手入れだけは怠ってはならん。其れが利かぬと忽ち斯様な目に遭う。饒舌もまた、やってはならん。
組み敷かれた体から伸びる手が捜査員らを制止する。魂の救済が済むまで待たれい──某の。
「ああっ、マイいっちゃう。でもタイホいやーっ」
ものいえば唇寒し。安普請の壁を宵の秋風が小刻みに叩く。
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