参 鞘心

1/3
前へ
/9ページ
次へ

参 鞘心

 空の間──残夜。 「健さん、これ食べて」 「いつも悪ぃな。ウチのがチャコの作る料理は最高に旨いってさ」 「ダメ~、アタシは健さんにだけ食べて欲しいの。秋茄子は嫁に食わすなっていうでしょ」  聡明で美しい私は、その言葉の意味するところが少しばかり違うことを知っている。 「健さんとこうなれる日を、イチニチチアキの思いで待ってたんだから」 「イチ……なんだって?」  チャコとやら。それをいうなら一日千秋だ。さっきから血の巡りが悪いにも程がある。男の胸元からは倶利伽羅(くりから)が覗いていた。ふん、社会のダニめ。  チャコから衣服を乱暴に剥ぎ取った健とかいうダニは、自らの下半身も露わにした。(いき)り勃つ二本のファルス。孕む恐れのない性交であれば、もはや私の出る幕ではない。高みの見物と洒落こむ。 「おっと、忘れるとこだったぜ」  ダニ健が私の体を掴み上げ、裸にした。よせ。何をする。私の本分は男女の営みに安寧を(もたら)すことだ。貴様らのような禍々(まがまが)しい輩の情交に使役などされてたまるか! 下がれ、汚らわしい。 「おい、どうだ? チャコ」  通常のそれよりオクターブほど低い艶声。私はそれをチャコの肛門管、ならびに直腸で聞いている。 「いゝ……いゝ」  ダニ健の一物を包む私を、得もいわれぬ蠢動で締めつけてくるチャコの括約筋は、私の知るどの女陰よりもしなやかで融通が利いた。もっともチャコのそれは本来性交を行う部位ではないのだから、それらと同列に扱って然るべきものではない。しかし現実として粘膜の伸縮をこれほどまで自在に操れるそれが、果たして他に存在するだろうか──いや、チャコのそれに優る神秘など、この世に二つとあるまい。 「最高だ……チャコ」  熱を帯びた声でダニ健がいう。私も同じ気持ちだった。 「ああん、もっとしっかり抱いて」  チャコが身をくねらせ、切なさを訴える。 「そうじゃないとアタシ……あゝ」 「はあ、はあ……そうじゃねえと、なんだ」 「アタシ、他の男好きに……なっちゃうよ。あ……」 「そんなこと、絶対に、許さ、ねぇ」 「じゃあ強く抱いて! 骨まで愛して! アタシを壊して!」 「こうか!」 「もっとよ! 女心は変わりやすいの! あゝゝ」
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加