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 一年に一度だけ、 この日に降る雪には、 一粒一粒に小さな天使が宿り、 街に、野に、山に、河にと降りてゆく。 雪の上にこしかけ、 こちらに向かって手を振っている天使たちの姿が 老人にははっきりと見えた。  ふと、一人の天使が老人の目に留まった。 きっと、生まれたばかりなのだろう。 風が吹くたびに足をばたつかせながら左右に揺れ、 やけに危なっかしく見えた。 その雪は、老人の脇を通り過ぎ、 さらに下へと降りていった。 老人は身を乗り出し、 頼りなげな天使の姿を目で追いかけた。 天使も老人を見上げながら、 必死になって雪にしがみついたまま、 どんどんどんどん降りてゆく。 やがて色とりどりの人工灯で彩られた、 ちっぽけな街へと消えていった。
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