こいのさき

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今日、自分の店を開店させられなかった。これはもうホント、恥ずべき事態。ベッドから起き上がれない。 以前入院中に休みになってしまったこともある。でそれはまあ、自分のせいではあるのだが不可抗力だった。 でも今回は自分の意思でクローズにしている。 なぜなら、物心ついてからおそらく人生初の風邪、体温計がないのではっきり数字はわからないけどかなり発熱しているみたいだ。 まだ秋口だけれど、もしインフルエンザだったり、感染するような病気だったとしたらお客様にうつしてしまった後ではシャレにならない。明日になっても熱が下がらなかったら朝一で病院に行かねばならないだろう。 ところで、風邪を引いたことがないと豪語している自分だが、実際に具合の悪さを意識してみると大人になってからはさておき、子供や思春期の時分には、引いたこともあったんだろうなと気づく。 でも、その頃はやっぱり具合が悪くなったからって誰かが助けてくれるわけじゃなかったから、防御のひとつとして自然に、風邪を引いている事実をなかったことにしてきたのだと思う。 弱くなった――。 具合の悪さを自覚できるようになったのは、多分自分が大切にされているから。 大切にされ、優しくされることに慣れてくると人は弱くなる。まあ、その俺を大切にしてくれる人は、半月ほどここに帰っては来てないけど。 頭がくらくらと回っている。ベッドに横になっているのに、何もかもが揺れていて倒れそうな気分だ。目を開けていると目がまわるし、閉じていると、ぐるんぐるんする幅が余計に大きくなる気がしてこちらもなかなか辛い。 それでもうつらうつらとしていると夢を観た。ベッドに眠っている自分を誰かが覗き込み、額に手をあてられる。包み込むような大きめの冷たい手が夢にしては随分心地よくて、思わず頭を擦り付けてしまいたくなった。その手が離れると急にこの世にひとりだけにされたような気分になり焦燥感で目を開ける。 目の前には俺の――真之介。なんでここにいるんだろう。 この部屋で真之介を見るのは実に半月ぶり。
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