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「しんの、すけ……?」
「広喜さん、なんで今?」
言われている意味がわからなくてぼんやりと真之介をみあげて、口元に視線をやるしかない。
「こんなに苦しそうにして……いつから……?なんで連絡くれなかったんですか」
出来るわけない。
そもそもお前が俺をおいて出て行ってずっと帰ってこなかったくせに。
真之介とは週に一度の俺の店への勤務以外では顔を合わせなくなっていた。店にいるときは通常通り仕事はこなしているが、会話はないし、どこで寝泊りしているのか聞いてはいない。多分ホテルでのバイトのときは仮眠室でも使って、それ以外の日は店じまいしたバーにこっそり戻ってるんだろう。知ってるけど、知らないふり。ある件でこじれてからずっとこんな感じ。
でもここは自分も譲れないところではあるので、自分からは声をかけないし、様子も見に行かなかった。
真之介とは以前勤めていた会社で出会った。
その頃の真之介はまだ新入社員で、入社後すぐの研修中のくせに本社への出張のたびにどこからともなく現れてまとわりついてくるその子を、いつの間にか待ちわびるようになっていた。
小さい頃から人に可愛がられたことがなった自分は己を大切にすると言うことを知らず、誰かを好きになって裏切られることも怖くて誰も好きにならないと決めていた。それはずっとぶれることもなかった。真之介に出会うまでは。
高校生の時から大学の学費を稼ぐためにウリ専バーで体を売っていた。学費の為というと聞こえはいいかもしれないが、結局のところ趣味もかねていたのではないかと思う。
自分の体をいじめて、心を固くして、そうやって生きてきた。誰も信じなければ、誰からも裏切られない。だから、誰も好きにならない。そう決めていたのに。
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