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――半月前。
恋人である広喜さんが病院を退院した。その後少しして快気祝でお礼をしたいからと言い出して、親しくしているカップル(うちと一緒で男×男)を家に招いたことから今回の件がはじまった。
そもそも広喜さんがどうして入院をしていたかというと――。
ある日の仕事を終えた広喜さんが、同じビル内の部屋へ戻ったところをストーカー(男)に襲われた。もみ合いになった挙句、逃げ道がそこしかなかったからという理由で、広喜さんは恐ろしいことにその3階のベランダから飛び降りたのだ。
落ちた場所がコチンコチンのアスファルトではなく、ゴミ捨て場に詰まれまくったゴミ袋の上だったのでクッション代わりになったことや、広喜さん本人の尋常じゃない体の丈夫さで、CTやMRIを撮っても異常がなくて、打ち身と軽い擦り傷程度で済んだ。ありえない幸運が重なったのだと思う。
それでも、広喜さんが三日三晩眠り続けていたときには心配でどうにかなりそうだった。
実際、その時は死んでもいいと思っていたと、後から広喜さん本人に聞いた。「真之介以外の奴に触られるくらいなら、死んだほうがましだ」そうストーカーにも、のたまったそうだ。
『俺以外の奴に触れられたくない』
恋人に言われてこれ以上うれしい言葉があるだろうか。でもあの時広喜さんが死んでしまったら、なんの意味もない言葉になってしまうところだった……。実際は生きていてその言葉を伝えてくれて、今までも惚れたおしてたのに、そんな風に思ってくれていたなんて、それだけでもう俺の方が死んでもいいと思えたのだった。
広喜さんと俺は9コ年が離れている。ある会社に入社してすぐ、出張で本社に来ていた広喜さんに一目惚れした自分がまとわりついて、猛プッシュして今の恋人の位置に収まった。
今、思い返してみて普通に震えてるけど、俺の広喜さんへの近寄り方って客観的に見ると、その事件のストーカーだった子とそんなに変わらないんだな……。結構ショックだ。受け入れてもらえなかったら俺もただのストーカーになるところだった。
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