こいのさき

6/26
前へ
/149ページ
次へ
広喜さんはゲイである。線は細いけど弱々しいわけでもなくて程よく筋肉もついているし、背も平均位で低いわけではない。すごくキレイだけど女性っぽいわけでもない。 俺はゲイではないと思うが、そんな広喜さんに恋をした。昔からそんなに人を好きになるほうではなかったけど、広喜さん以前に好きになった人は全員女性だった。でも26年間の人生でこんなにも好きになったのは広喜さんだけだ。 それは男性とか女性とか、自分の中ではあまり重要ではなくてただただ『広喜さんだから』としかいいようがない。 そんな広喜さんはとてももてる。女性でも見とれてしまうほどの美しさだし、男性相手になるとさらにその上をいく。吸引力というか、ある特定の人を引き寄せてしまうようで、粘着・執着されてしまうのだ。多分自分もその中のひとりなんだろうが……。 本人は見た目と裏腹にかなりのがさつなところがあるので、びっくりするくらい気にしてないんだけど、傍から見てもこれは結構深刻な問題だと思う。実際にそれが原因で広喜さんが襲われたわけだし、以前には俺も広喜さんに執着している人に襲われた。それなのに重ねて言うけど本人は全然深刻に捕らえてない、というか、そんなわけがないと思い込んでいるフシがある。だからきっと「俺に勝手になんかしたらぶっ飛ばす」くらいにしか思っていないのだと思う……。 だから俺としては、気が休まるときがないわけで。でもそんな広喜さんが俺だけを好きって言ってくれるのが、信じられなくもあり、この上なくうれしいことでもある。 俺たちはふたりが揃って幸せに生きていけるこの日常が、あたりまえじゃないことをよく知っている。 毎日の何気ない繰り返しがある日突然終わってしまうことがあるってことも知っている。 俺たちにはふたりが出会う前から、周りの人よりもちょっとだけ多く、それだけのことがあったから。 だからいつでも後悔しないようにお互いの気持ちを素直に伝え合ってきた。 そのつもりだった。でもそれは俺だけだったんだろうか……。 あのことが尾を引いて、ずっと素直になれない。 小さな綻びが裂け始めて、もう繕いきれないところまできてしまっている……。
/149ページ

最初のコメントを投稿しよう!

501人が本棚に入れています
本棚に追加