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俺は広喜さんと一緒に作った食事を並べたテーブルにふたりを案内した。料理はすべて手作りにする時間も手腕もなかったので、半分以上ははデパ地下に頼っている。こういう時、お手軽に美味しくて美しい見た目の料理が手軽に手に入るのだから、つくづくいい時代だと思う。
それから広喜さんとっておきのお酒も用意して、会は和やかに進んでいた――途中までは。
「広喜さん、バーの名前『blue green』ですよね。名前の由来って聞いてもいいですか?」
まだほとんど飲んでいないのにうっすらと赤みを帯びた顔の響さんが口を開いた。
「あっ?ああ。あんまり深い意味はないんだ……真之介は緑色が好きで、俺が青色が好きっていう、それだけなんだけどね」
「そうなんですか?」
「真之介、なんでお前が驚いてるんだよ」
だって本当に知らなかったから。すごく驚いた……。俺がいなかったときなのに、そういう風にして店の名前を決めていたんだ、広喜さんは。
「あと俺はソウって読むくさかんむりの蒼って字もすごい好きで」
「あ、俺の弟、その字で「アオ」って名前なんですよ」
「そうなの?響に蒼か。兄弟揃っていい名前だなー」
「ありがとうございます。でね、蒼の恋人の名前が緑なの。ふたりで蒼緑だから広喜さんのバーの名前を今度教えてあげたら喜ぶかなって思ってるんだけどなかなか伝える機会がなくて」
「遠くにいるの?」
「いや、あの駅近くの病院で看護師してるんですけど」
「めっちゃ近いじゃん。だったらすぐにでも飲みに来れるよね。その彼女の緑ちゃんと」
「それが弟とは大人になってからあんまり仲が良くなくて……それでもいろいろあったときに一時ちょっと昔みたいに仲良くなったんだけど、こっちに戻ってからまた先輩とのこととかでこじれちゃってね……」
「弟さんは晶也さんとのこと、反対とかしてるんですか……」
「そうじゃなくてさー、その緑ちゃんは実は緑くんで男なわけ。それはもうびっくりするくらいの美形の王子様みたいな子でね、超格好いい子なんだけど。で、蒼はその緑くんとずっとつきあってて、いつか家族にも打ち明けるつもりでいたんだよね。それなのに突然俺が帰ってきて「先輩と結婚する!」って宣言しちゃったから、あいつは言い出す機会を逃しちゃったわけ。で、それからすごい怒ってる、俺のこと」
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