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「お前の伝令は、間に合わなかった……わかったな」
伝令の隊士が、暗殺を命じられていた他の隊士さえ、サッと顔色を変えた。
冬の外気より冷たい凍鉄が、風を切る。
「……ッ奸賊ばら!」
凶刃にしっかり反応した伊東に刀を抜かれながらも、酔った相手に負けることができる“人斬り・鍬次郎”ではない。
紅く染まった白磁の肌が、暗く冷たい地面に色を加える。
「そんなに、僕に斬られたい?」
近藤局長の意を無視した大石に、かつて度々手合わせをせがまれていた沖田が囁いた言葉だった。
他の幹部隊士と共に伊東の死を聞いた土方は、間髪入れず次の策を練った。
「油小路に晒せ」
いや、大石の残忍さを熟知し、用意をしていたのかもしれないと、自らのそれを強調して意識する。
鬼になれ。
そう言い聞かせなければ副長の顔を保てない。
「歳!」
死体を餌に御陵衞士を誘き寄せて一網打尽にしようする鬼副長を、これも土方の筋書通りに局長は止める。
近藤は……この組織の頂点は、隊士に恨まれては、怖れられてはならない。
「伊東を喪った高台寺党は、必ず新撰組に報復する」
彼等の伊東への忠義は凄まじい。
ひょっとすると近藤への、土方や沖田の気持ちと等しいくらいに。
高台寺党と一戦交えるのは、永倉と原田の隊。
勿論この人選は、腕は当然だが、こういう時に逃げも隠れもしない、必ず油小路に現れるだろう藤堂を何とか救う機転の利く、そして何より特別よくツルんでいた者をと選んだ。
土方は隊士に、すぐに役人に届けるようにと命じた。
伊東が“何者か”に斬られ、その遺骸が油小路に倒れたままだから引き取りに来てほしいとの、藤堂にとっては悪い予感的中の報せが月真院に飛び込んだ。
「……新撰組だ……!」
「時勢を知らぬ成り上がりが!」
「クソッ……すぐに先生をお連れするぞ!」
嗚咽混じりの悪態を口々に吐き出して、一斉に立ち上がった。服部武雄と藤堂を除いて。
「待て! これは罠だ!」
服部も遅れて立ち上がる。しかし止める為だ。
そうこれは土方が、御陵衛士らが勘付き、それでもかかるだろうとまで計算した罠だ。
「伊東さんを晒して置けと言うのか? ふざけるな!」
「上等ではないか! 仇討ち合戦だ!」
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