第一章

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   言うより早くもう襖を開けているところへ、ちょうど他の隊士が通りかかったらしい。 「土方副長! もう帰られるんですか?」 「おう。こんなくそガキ、抱く気にもなんねぇ」  今度は背中目掛けて枕を投げ付けてやった音が鈍く響く。 「いってぇっつーの!」  こんな二重人格男、大ッ嫌い! 「ただいまぁ」  女将の部屋に入ると、すごく心配そうな顔で迎えられた。 「あんた、壬生狼の副長はんに呼ばれはったんやて?」 「お母さん、うちの名前な……」  あのひとの話はやめてと、思いながらすぐに話を変える。 「……忘れとった! 堪忍なぁ」  やっぱり、わたしを逃がす気だったんだ、きっと。 「ええの。うちは“月野”で芸妓やるし」 「あんた本気で言うてんの? ……ええわ、あんたの好きにしぃ。言葉もやっと直ったしな」  芸妓になった日の夜が更けていく。  生涯忘れない、忘れられない出逢いの日。  永遠に魅了して止まない愛しい人の面影は、わたしの人生で、消えない光を灯し続ける。 第一章   了
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