第二章

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――パーン! 「次!」 ――パァン! 「次!」  ここは壬生浪士組の屯所。 壬生村の八木邸と前川邸を借り切り、お世辞にも大人しいとは言えない浪人共が寝泊りしている。  局長の一人・近藤勇は、京に来る前は試衛館という天然理心流剣術道場の道場主をしていた。剣の腕が頼りの浪士組で、真っ先に屯所にも道場を造らせのだ。  今朝も厳しい稽古の音がこれでもかと屯所中に響いている。 「違う! そんなんじゃ実戦では通じない。躰で斬れ!」  一際大きな厳しい声は、副長助勤筆頭であり剣術師範頭。天武の剣士などと称される、沖田総司。 「げっ! 今日の朝稽古は沖田先生かよ!」 「うわ、マジサボりてぇ! あれで試衛館塾頭時代よりは稽古が優しくなったらしいから驚きだよな」 「っつか、普段の沖田先生からの豹変ぶりはありえねぇよ」  沖田は九歳の時、試衛館に内弟子として入門して以来その才能は凄まじく、十八歳で免許皆伝となった。いつも冗談ばかり言っているが、剣を持つとがらりと人が変わる。でも実際に人を斬ったことはまだ無い……とは兄貴分である土方が見ていればわかることらしい。    稽古中には意外にも短気で負けず嫌いな面が顔を出す。明らかに格下の相手だろうが本気で打ち据えるから、常に人の輪の中心にいる癖に稽古中だけは疎まれていた。 「まぁ、そう言うなって」 「うわっ! はっ……原田先生!」  道場の奥で、地獄耳ながらも知らん顔をする土方と違い、大声を掛けるのは原田左之助と藤堂平助。 「あいつだってお前らが斬られて死なねぇように、あんな稽古してんだからよ」 「総司くん、言ってたよ。“僕と稽古して一本取れていたら、そこら辺の人にはまず負けませんから”ってね」  あいつ……んな生意気言いやがるのか、と土方は吹き出しかけた。  一見仲が良いが、壬生浪士組の内には二大派閥がある。  かつて水戸天狗党として尊王攘夷活動に奔走していた、筆頭局長・芹沢鴨率いる水戸派。他には新見錦、平山五郎、平間重助らが属している。  
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