第二章

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「だって、猫背じゃないですか」  背は高いのに少し丸っぽい猫背。剣術は姿勢が大事だ、と聞いたことがあったのだ。 「あはは! ひどいなぁ……他にはどうです?」  自分のことなのに、何か楽しい物語でもせがむような表情になっている。 「そうですねぇ……道場主、なんて合ってるかも! ひとに教えるのは上手で、近所の子ども達を集めて毎日楽しそうに稽古してるんです。どうですか? 当たってます?」  元気づける為どころか、本気でそう思った。  だって総司さんには良く似合うお仕事だ。 「ふふ。さあ、どうでしょう?」 「もう! ずるいです!」  頬を膨らませると、悪戯をした後の少年のような顔でしばらく笑っていた総司は、急に身体を向けて思案顔になった。 「月野さんは……立ち姿や仕草が綺麗だから、舞を舞ったりしたら似合うだろうなぁ……きっと、天女さんみたいですよね……あれっ……!」 「えっ?」 「あそこ……! 猫が」  指で差し示された方を見ると、大きな木の上で真っ黒な子猫が下に降りられずびくびくしている。 「僕、行ってきます!」  そう言って走っていくと、するすると木の上に登って行ってしまった。  子猫に悪いと躊躇しながら、月野はその間中、さっきの言葉ばかりが気になっていた。  ゆっくりと近づき、子猫を自分の懐に大事そうに潜り込ませると、またするすると木から降りてくる。降りて来て懐から出すと、急に暴れて素早く遠くへ逃げてしまった。  総司は振返り、月野が見ていたのに気がつくと、にこにこしながら帰って来た。 「はは……嫌われちゃいました……」  少し溜め息交じりに呟いた。動物が好きそうなこの青年は、とても残念そうに苦笑いになった。 「……あっ! そんなことないですよ!」  月野の声で子猫の走って行った方を振り向くと、さっきの子猫は遠くからじっと総司を見つめている。勝手な想像かもしれないが、何となく、すまなそうな顔に見えた。 「行っていいよ」  そう言って総司が手を振ると、今度は本当に帰って行った。 「総司さん、髪が……」  木の枝に引っ掛かってしまったのか、髪が少し乱れている。 「あれ……」  すぐに結紐を外し、結び直そうとした。
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