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“外”というのは遊里・島原の外。ここは世間から切り離された場所。土堤で囲まれ、大きな門で閉じ込められた京格子の檻。男の極楽・女の地獄。憧憬を浴びる綺麗に着飾った女達には自由などないこと、毎日痛切に苦しみながら、それぞれ忘れた振りをして楽しく暮らす。
「ええよ。はよ行き」
笑顔に見送られ、駆け出した。よく考えもせず。
女将は“逃げなさい”と言ったのかもしれない。
芸妓になんてなりたくない。
好きでもない、初めて会う男のひとに、心から笑えない。
でも今まで育ててくれた“お母さん”に、恩返しをしたい。
子どもながら、その気持ちは本物だった。
最後の外出のような気持ちでひたすら歩いた。もちろんこれからだって買い物はするし、遊びにも出かけられる。
変わるのはただ少女のみ。
今日で別れを告げる。
自由な子どもだった時には、戻れなくなる。
かなり歩いた気になった。
しかし気持ちと同じに足取りも重く、まだ十町先の壬生村までしか来ていなかった。その名の通りに名物の壬生菜畑が広がるのどかな風景。常なら落ち着くような景色も、見る余裕もないままにただ歩いていた。
ただ時間はすっかり過ぎていた。
壬生寺の境内から望む陽は沈みかけ、そこかしこで遊ぶ子ども達の姿を橙の空が優しく包む。和やかに眺めている場合じゃない。とうに置屋に帰って、化粧を始めていなければならない頃だ。首の辺りまで白粉を塗る化粧の上、初めてだから時間がかかる。それもこの少女、ひどく不器用だ。
振り返り、走ろうと大きく一歩。
途端、反射的に眼をぎゅっと絞る。かなり強く、ぶつかってしまった。
ぐらりと身が後ろに倒れる。何かに頼ろうと伸ばした腕を掴まれ、引き寄せられた。
全部が、瞬きの間のような早さで。
「大丈夫ですか?」
恐る恐る、ゆっくりと瞼を開いた。
まず、しっかりとしがみ付いている手。そして藍染めの袷と胸。少女が始めて間近で見る、男の胸だ。
抱き留められた胸を離れ、見上げると心配そうな顔。
「ごめんなさい!」
青年は、本当にすまなそうな顔をしていた。
急に駆け出そうとして、人にぶつかり、転びそうになるのを助けられた。戸惑い、しばらく茫然としてしまっていた。そして明るい、よく通る声にハッとした。
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