第二章

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「隊服に関しては近藤さんと芹沢が意気投合してるからな。柄まで一緒になって決めちまった」 「ヘぇー! 出来上がりが楽しみ!」  無邪気な藤堂に土方はその柄を思い出し、危うく笑い飛ばしそうになった。        続けて、浪士組の新体制について。  まず十人で一つの小隊を編成し、以前の副長助勤がそれぞれの隊の長となる。隊の数は全部で十。他に、監察、会計方がある。  一番隊の隊長が沖田総司、二番隊が永倉新八、三番隊が斎藤一、八番隊が藤堂平助、そして十番隊は原田左之助。 「新見は局長から格下げだ」  誰もが納得の表情だ。理由に確証は無いものの、隊士一人ひとり思い当たる節が合る。局長の身分と芹沢の威の影で、ろくに仕事もせず押し借りや暴力ばかりに精を出し、大した力もないのに踏ん反り返っている者を、嫌わない隊士などいない。  いずれ、何とかしなきゃならねぇ男だ。  土方は顔色すら変えずに思った。 「なぁ、“死番”ってのはなんだ?」 「……しばん?」  眉間を寄せる永倉の横で、沖田が首を傾ぐ。 「まぁ……“死ぬ番”だな。見廻りの時、四人一組で行くだろ? で、一番に戸を開けて突入するのが“死番”だ」 「縁起でもねぇな」 と、笑う永倉含め、怯える者など一人もいない。むしろ満更でもない様子に、土方は改めて心強さを感じた。口には絶対出せないが。 「交代制だから、本人には朝から知らせて心の準備をさせる」 「戦場(いくさば)一番乗りはお役御免だなっ魁先生!」  原田が藤堂の背中を思いっきり叩く。若い藤堂はいざ斬り込みになると先陣を切るから、そんな徒名(あだな)が付いていた。  後の新撰組の組織者である土方はこの時期、なんとか浪士組を世間に、幕府に認めさせたくて躍起になっていた。  舞の稽古中に知らせられた。  十綾が太夫揚がりをする。しばらく不在だった、月野が属する置屋・吉更屋の、太夫の座が埋まる。  太夫とは、朝廷から正五位の位を戴き、天子様の御前で舞う事を許された格別の芸妓。その辺りの武士や貴族より余程身分が高い。京に住む人々、全芸妓の羨望の的。もちろん、月野も目標にしている。  いつも一番叱ってくれて一番褒めてくれた十綾が太夫になると聞いて嬉しく、誇りに思った。  でもその時、先輩芸妓が信じられないという顔で稽古場に入って来た。
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