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文久三年九月十三日、祇園新地・山緒。
「どういうことだぁっ! 土方ぁっ」
「どうと言われましても……言葉のままの意味ですよ。芹沢局長の名を騙っての押し借り、乱暴狼藉、そして屯所を離れての遊郭居続け……あなたの所業は法度第一条“士道に背きまじき事”第三条“勝手に金策いたすべからず”に当たる」
あえて無表情のまま、唇だけを動かして淡々と語ると、余計に新見は閾り立つ。怒りに震えながら顔面を真っ赤にして、“科白”を耳に入れていた。
介錯は原田左之助。刀は不得手である。
「わッ私が切腹だなどとっ、あの方が許す訳が無い! 土方、原田、お前ら東男の謀り事であろう! 芹沢局長を呼べぇ!」
必死の形相で腕を振り回す。
「見苦しいぜ。あんたも武士ならば覚悟を決めたらどうだ?」
土方は苛立ち、つい公用を忘れ伝法な口調に戻る。
「う、煩い! 誰が切腹なんかしてやるか!」
立ち上がろうと膝を付いた。
「折角、新選組副長のまま死なせてやろうとしてるんだぜ?」
「なっ! なんだと?」
顔面は一変蒼白になり、硬直した躰はただ戦慄く。その様を愉しんでいるように見えたのか、悪趣味だと原田が舌打ちした。
「この名で呼ばねぇとわかんねぇか? ……田中伊織」
「何故ッそれを!」
新見錦の本名。いつしか長州の間者となっていた。これだから新撰組の、というより土方の大事な監察は恐ろしい。
「切腹は、両局長の命だ」
近藤の大好きなあの赤穂浪士でさえ、本当に腹を一文字にかっ捌く切腹をやる者などいなかった。だが、新見はそれをやってのけた。流石は元、水戸天狗党の一員だ。血で染まる障子を眺め土方は、ここまで追い詰めながらも感心せずにはいられなかった。
芹沢鴨暗殺。
沖田総司が初めて人を斬った日。
土砂降りの、夜だった。
先日、京都守護職・会津藩主松平容保に呼ばれた近藤と土方は密命を受けた。
「他に……方法は無いのか……っ!」
「近藤さん、肥後守様直々の命だ。逆らえないだろう」
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