第二章

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 郭での乱暴狼藉に押し借り、極め付けは大和屋焼き打ち。攘夷・討幕派の連中に大金を貸して新撰組には一銭も貸さなかったと、幕府に反する不届きな者という理由で火を点けた。当の芹沢はその屋根の上に登り、大鉄扇を広げながら火事見物をする始末。噂が大袈裟に広まり、大砲を撃った等と言う者もいる。それらの所業を上げられ、新撰組の預かり主にさぁどうすると言われれば、取るべき方法は一つである。 「近藤さん、今回の件は俺に任せてくれ」 「歳、何を言う! 是非の無い事ならば俺も……」 「駄目だ。局長自ら手を汚す事では無い」  それでも食い下がろうとする近藤を見つめた。興奮で涙目になっている。 「大将のあんたが、隊士に疑念を持たれたらこの新撰組は終いだ。決行するのは試衛館以来の同士から抜粋する。他の者には一切を伏せる」 「……誰を行かせる?」  やっと聞く気になったようだ。 「俺と、サンナンさん。源さん、左之」 「そして、僕!」 「総司。立ち聞きなんかすんなよみっともねェ」  障子がすっと開いた。 「絶対僕も行きますからっ!」  宣言と共に、頬を膨らませている。 「わかってる」  だからそのガキみてぇな面はやめろと、渋々返事をした。 「ならいいんです」  あっさり出て行った。どうせまだ聞いているだろうが。  普段芹沢には可愛がられている沖田が、当然の様に殺しに行きたがる。近藤と土方は昔からの付き合いだが、こういう部分は余りに未知だ。 「歳、永倉さんは」 「アイツは駄目だ。芹沢とは同門だし、正義感が強過ぎる。闇討ちには向かねぇよ」 「なっ! 闇討ち?」  驚愕の顔で土方の腕を掴んだ。 「ああ。芹沢はあれで神道無念流免許皆伝、水戸天狗党幹部だった男だぜ? 正面(まとも)に行きゃ、こっちが殺られちまう」  わざと冷静に言うと、さらに掴み掛かった。 「俺達は……! 武士になったのだろう?」 「勿論だ。だから失敗は許されない。仲間を失う訳にはいかない」 「……くっ……!」  心底悔しそうに手を離す。  どこまでも真っ直ぐな近藤に対し、土方はこの日が来るのを知っていた。  芹沢が何をしようと。新撰組の名を貶めようと。このまま続けていれば必ず、上から目を付けられる。その時を待っていたとも言える。近藤が、唯一の局長に成れる日を。
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