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そう返す唇は、軽い口付けに止められた。
「お梅を……妻にする、と」
耳元で響く、掠れた低い声。その声に最期まで酔いながら、お梅は瞳を閉じた。
文九三年九月十八日。
今夜島原の角屋扇の間で、新撰組隊士総揚げの大宴会が催される。
最も有名な遊郭の一つだが沖田は“その辺り”には詳しくなく、実はここに来るのは初めてだった。
人を斬ることも。
酔って眠った所を襲う作戦。決行する五人以外には絶対に知られてはいけない。原田など永倉と仲が良いから大変だ。
まばゆく輝く豪奢な衣裳。絢爛な舞姿。
直視できず、沖田は目を伏せていた。耳に、爪弾く三味線の音が響いた。
一方月野は、皆さん、わたしが土方さまの恋人だとか思っているかもしれない、と少し恥ずかしそうにしている。
何せ市中を歩いていても、
「副長はんと仲良ぉね!」
なんて声が聞こえてくるのだ。
天神として初めて舞った。これが、十綾が立っていた舞台。
同じ様になんて無理としても、せめて近付きたい。天神の名を背負う者として、がっかりさせるような舞は絶対にしたくない。
わかっているのに、緊張で隊士達の方を全然見られなかった。
舞が終わりしばらくすると、すぐに土方に呼ばれた。
すごく楽しそうな隊士を前に今日、月野はやっとわかった気がした。
みんな怖いなんて言って嫌うけれど、そんなことない。この人達は京に住むわたし達に害を与えたことは一度もない。“天誅”はなくなったし、夜でも安全に歩けるようになったじゃない。
感謝しなくてはいけない人達なのに、と。
「この妓が噂の月野天神か?」
そう言って、男前と名高い原田の顔が月野を覗いた。
「おぁっ! “副長様”ぁ? 随分面食いですなぁ」
「たりめぇだ。孔が空いてりゃなんでもいい“左之様”とは違ぇんだよ」
えーっと……とりあえず、今夜は“公用”では無いのですね……って、最低ー!
ギロリと土方にだけ睨み、酒を持ってくる、という口実で席を立った。
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