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「新入生ですね? 間もなく開場時間ですよ」
誰何の声によって現実へと意識が引き戻され、顔を上げるとひとりの女性が立っていた
自分が今、着ているものと同じデザインの制服を着ていること
そして、リボンタイの色が紅ではなく、紺であることから上級生であることがわかる
男としての性か、視線は胸へと吸い寄せられる
(オレよりデカいな…。D……、いやEか)
大きな誘惑を振り切って立ち上がり、身体の前で手を重ねお辞儀をする
「ありがとうございます。では、後ほど…」
そこでオレは相手の顔を初めて認識した
鼻筋が通っていて、ダークブラウンの瞳は大きくパッチリ、
小さく柔らかそうな唇は綺麗な桜色をしていて
セミロングの髪には軽くウェーブがかかっている
身長は女のオレより少し低い、たぶん154cmくらいだろう
男の姿だったら正直お近づきになりたい美人さんだが、今は女の姿をしている
踵を返し、講堂へと向かおうとすると
「あ、待って…」
呼び止められたオレは振り返り「なんでしょうか?」と聞こうと
口を開く前に彼女がオレに近づくのに気付きドキリッと心臓が高鳴る
そして、細くて白い指をオレの首元へ近づけ…
「タイが曲がってますよ」
そう言ってタイを一度解き、結び直してくれた
彼女からふわりと茉莉花の香りが漂いオレの鼻腔をくすぐる
名残惜しいが、タイも直ってしまい彼女と一緒にいる理由が無くなってしまった
オレは彼女にもう一度、礼を言い講堂へと向かった
(そういえば、名前を聞いてなかったな…)
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