シルエット・ロマンス・・・(Ⅱ)

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その場その場で平気で嘘をつき、恋愛をチェスになぞらえ、駆け引きを楽しむことは、薫にはとてもできそうにない… 「その女性(ひと)はとてもきれいなのね…」薫は、唇を噛んだ。 「男の人なら、誰でも手に入れたがるでしょうね…」 薫を傷つけるのはたやすいと、長野は思った…そんなまねは、二度としたくない! 「僕は今、君と一緒にいるんだ…」長野はテラスから和室に戻り、素早く周りの和ろうそくの火を吹き消してから、薫の隣に座り込む。 そして彼女を腕に抱いて、窓から梅雨の晴れ間の星灯りが、見えるようにした… 薫は小さな溜息をつくと、緊張解く。呼吸のたびに胸が揺れるのを感じたのも束の間、彼女はそっと眼を閉じていた…安心しきって。 今までは、熱いひとときを過ごした後も、長野は女たちを長く引き止めたことはなかった。でも薫は違う…彼女は長野に、憩(いこい)をもたらしてくれた。 長野は、梅雨の晴れ間の遠く青白く流れているような天の川を、見上げた… 香川が河野美優と進めている、もう一つの企画、杉原・上川といった名うての広告代理店の幹部と、渡り合う機会に恵まれたのは、いい経験になると思う… また、この手の企画においては、右に出る者がいないとアピールするには、今回も相手に、有無を言わせないつもりだった… 長野は、眠ってしまった薫の黒髪を指に絡めながら、線香花火のように瞬いて降った、流れ星を見つめる… 自分の計画を着々と進め、実現していくために…この機会を牛耳っていけばいいのだ。 そして、薫との関係を続けたまま…彼女を自分のものにしたまま、周りの目を欺くこともできるはずだから… 時が経てばこの仕事も、経歴に加わるだけのこと…2人の間でも、主導権を握り続けることができたのに、彼はどうしても気が進まなかった。 この企画が済んだら、薫を連れて彼女の住む街・古都・京都を歩こうか… ごく親しい友人たちにだけ紹介して、最近覚えたと言っていた彼女の手料理を、食べさせてもらうのもいい… 僕を笑わせ、夜はベットを温めてくれるというのも、悪くない… 東京を離れてゆっくりできる時間が、どんなに凌ぎやすくなるだろうか… この企画を進めるうちに、桓武天皇が794年(延暦13年)平安京に遷都したことに始まる、千年の都である京都の隠された魅力を、掘り起こすことができたのだ。
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