シルエット・ロマンス・・・(Ⅲ)

3/13
前へ
/24ページ
次へ
彼女を誘惑するまでは、友情さえも感じていた…長野は自分を罵った。 彼女はただの優秀な社員だけではない…日本有数の大手広告代理店の幹部からも、メインで仕事を任せても何ら心配はいらないと、評価を受ける女性だ。 それももう終わりかもしれない…まったくどうしてしまったのか? いつものように修羅場になるだろうな!気配り上手な薫は消えて、理性の欠片のない女が現れる…そしてしつこく引き留め始めるのだ。 いや…待てよ!薫が引き留める?話にならない…彼女が今まで付き合った女たちと、同じだとは限らない! それならこの関係も、違う展開にできそうだ… まだ彼女が欲しい!付き合い初めだと言うのに、自分から別れを切り出す女性(ひと)だから。 僕が満足するまでその体で受け止めて、腕の中で乱れる様を、見せてくれるだろう。それに飽きたら、共に進める企画の担当者にまた戻ればいい‥ 彼女のことは、これまでになく欲しい!京都に帰るまでの短い時間だから、余計に求めてしまうのだろうな…これまでもそうやって【情事】を終わらせて来たじゃないか? あと数時間のことだ!彼女の肌を心ゆくまで味わえば…・ 「博さん!空が明けていくわ…おはようございます!」 背後から声が聞こえる。その声で振り返り彼女を目の前にすると、言葉がみつからなかった… 薫は部屋に備えてあった彼と色違いの桜色のバスローブを羽織り、テラスに出てきていた。 ふと気が付くと、この離れに海岸に昇るピンク色の朝日が、美しい光を投げかけていた…それは夜明けの薄紅の光に変化して、靄(もや)に白くけぶる空を、照らし出す。 暖かい光が離れの高窓から差し込み、宙に舞う細かな塵を、浮かび上がらせている… 夜明けの清々しい光の中で、彼の後ろに佇む薫の顔には、静かで強い意志を持ち合わせた微笑みがあった。 これほど美しいと思った女性(ひと)はいなかった…ここまで優しく気高いとは…それに彼女ほど興味を煽ってくる女性(ひと)もいなかった… どんな女たちも、彼女を抱いた後には、全く思い出すことさえもない! また昨夜のことが蘇り、欲望で体が疼いて来る…今直ぐにでも、薫を抱き上げて、夏布団の上に横たえ何度も…速く…強く…満ち足りるまで奪いたかった。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加