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「夢を見ていたんだと、思っていたのに…恥ずかしいわ…」
「声に出していたよ…薫…」長野はにべもなく答えたが、胸中は薫への愛しさが、隙間がないほどに占めていた。
「わたしはただ…」「わかっているよ薫。君の想いは、僕に届いているから…」長野は、もう一度薫をしっかりと抱き締めた。
薫は初めて男に抱かれて、錯覚してしまったのかもしれない…
男がブランド物の時計をつけて誇らしげになったり、ヨットや高級外車を乗り回したりして、自分を誇示するのと同じことだ。
それともまた、大きな契約等を取り付けるために、相手方を打ち負かすことに、力を注ぐのと…。
長野は自分にそう問いかけながら、それが偽りだと気づいていた。
「博さん…」薫が指を、自分の胸に触れている長野の指に、そっと絡める…
「もう少し眠ったらいいよ…薫…」長野は、素っ気なく答えて、絡められた白く細い指が離れないように、さらに深く繋ぎ直す。
【薫は僕のものだと…これからどんなことが2人に起ころうと、薫を離せない…】そう言いたげな視線を薫に落として。
この瞬間(とき)長野は、ありのままの自分を晒せる相手に、ようやく巡り合った嬉しさに包まれていた。
燃え尽きる前の和ろうそくが、ひときわ明るくなったその瞬間(とき)、薫はまた眠りに落ちていった。
しかし長野は、再び薫を抱いたまま眠ることができなかった…これからの関係をどう進めようか?ふと気がつくと、そればかりが頭に浮かぶ。
そして薫が自分から絡めた細い指を、長野はしばらく眺めていた…
その瞬間(とき)、薫が吐息を漏らしながら、腕の中で寝返りを打ち、静かに目を開ける…そして彼の頬に触れようとしていた。
【薫は僕を生理的に受け入れようとしている…自分の温かな身と心に…】薫が出したそのサインに長野は、すぐ気づいた。
それが確認できた彼は、まだ眠そうにしている薫に、優しいキスをして目覚めさせる…まず細い肩に…まぶたに…珊瑚色の唇に。
「薫…起きて…」ささやくような長野の声で、薫はようやく眠りから覚めた。
「そろそろ朝食を運んでくれるって、さっき電話がかかって来たけど、先に温泉入って来る?」
「ごめんなさい…もうそんな時間なのね…ちづるさんにご連絡もしないで、ゆっくりしてしまって…」
薫は自分が、長野の腕の中で眠ってしまったことに気が付いて、頬を染めながら彼の腕から抜け出た。
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