シルエット・ロマンス・・・(Ⅲ)

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「ちづるさんもわかっているさ…僕が君をこの離れに連れて行くって話した時、『やっとこのようなお手伝いができるわ!』って涙ぐんでいたからね…」 「薫のいい匂いで目覚めたから…気分がいいな!」「…っ!」 薫が視線を反らそうとすると、長野は、薫をまた腕に抱き寄せようとする… それから「博さん…わたし…」と、答えようとした薫の唇に指をそっと当てて、黒い瞳を覗き込んだ… そして気がつくと、ふっくらとした珊瑚色の唇の甘さを惜しむように、彼はまた唇を重ねてしまっていた。 「一緒に檜の露天風呂に入ってもいいんだけど…」「…・」 「それは…ダメ…」「どうして?」 「陽光の下で肌を見せるのは、恥ずかしいの…」 「あなたが、今まで付き合って来た女性(ひと)たちに比べれば、胸も小さいし…」 「あなたを虜にしておける程の容姿だなんて、お世辞でも誰も、思わないでしょう?」 「そうかな…」「…っ!」 長野の眼が、梅雨の晴れ間の空の下で、榛(はしばみ)色に変化していくのを薫は、不思議そうに見つめている… その様(さま)をチラリと見て、長野は眉を僅かにひそめて、彼女の反応を理解しようと頭を働かせていた。 薫は、【自分が男にどのような影響を与えるのか…】気にならないのか?それとも意図的に気づかないふりをしているのだろうか? 彼女に具(そな)わる丸みを帯びた優しい曲線に、そそられない男などいないはずだ! ビジネススーツを着ていても、豊かな膨らみはよく判る…目立たないように…世間の関心をひかないように薫がすればするほど、隠されている美しさが、滲み出て来ているというのに…。 その瞬間(とき)トランジスタグラマーという言葉が、長野の頭に浮かぶ…まさにその言葉がピタリ!だと、悪戯っ子のような視線を薫に送った。 薫は向けられた彼の目線が、何か言いたげに感じたのか、訊ねる… 「博さん…どうしたの?」「…」 薫に声を掛けられて、彼はハッとなった。「ごめん…何でもないよ…」 「それならいいけど…疲れが溜まっているのに、無理をさせたのか…と思ったの…」 「こんな素敵な離れで過ごさせてもらっただけでも、ありがたいのよ…」 自分の方こそ、彼女をここまで連れて来て、無理強いさせたと思っていたのに… 僕を責めると、間違いなく思い込んでいた。しかし薫の口から出た言葉は、逆に僕を気遣うものだった…
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