シルエット・ロマンス・・・(Ⅱ)

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長野が薫をこの離れに連れて来たのは、誘惑するためだった。 彼女の信用を勝ち取って、この企画の雑誌社側の担当者として有利な情報を、引き出そうと目論んでいた… しかし受入れされざる真心がまた頭をよぎり、瀬戸際で薫を突き放そうとした。 でもそれも彼女が、キスをせがむまでのことだった… その瞬間、長野はこの企画を進めるために、薫を利用しようという考えを捨て、香川と美優の企画とも競うのを諦めた。 彼女を自分のものにできるのなら、同時進行で進んでいる企画さえ、どうでもよくなった… 罪の意識を感じることなく薫を手に入れ、彼女が想い描いている親切な長野の形姿に、少しでも近づくために、すべてを諦めた。 長野は、持てるすべての自制心をかき集めて、ゆっくり事を進めた… 薫に喜びを与えようと、心に決めていた…しかし2人の視線が絡むと、彼は深く体を沈めていたのだ。 薫と一つに溶けあいながら、愛らしい彼女の顔を見下ろしていると、これ以上、自分を抑えることはできなかった… やがて薫が体を弓なりにして、甘えるように彼の名を呼ぶ…「博さん」その時彼は、すっかり自制心を失くしていた。 最後に深く腰を動かすと、荒荒しく声を上げ、自分を解き放った… 薫の甘い吐息がそれに重なり、長野の体を抑えられないほど熱い歓びの波で、揺らめかした。 長野は薫の上にくずおれた…ほんの一瞬、意識を失っていたかもしれない…それから自分の体で、彼女を圧(お)し潰(つぶ)しているのに気づいた。 自分にバージンを捧げてくれた、このかよわく美しい純粋な女性を、傷つけたくなどないのに…二度と。 薫の傍らに体を横たえると、そっと彼女を腕に抱き寄せ、額に口づけた。 薫は深く息を吸いこみ、彼を見つめる…2人の間に起こったのは、言葉にするにはあまりにも、深い意味のあることだった… 和ろうそくと差し込んで来る月の光が、薫の艶めかしい体の曲線を浮かび上がらせる…彼女は長野が求めていたすべてを、備えていた。 しかもバージンだったのは、体だけではなく、心根=気立てもだった。 自分が薫の最初の男だと考えると、長野は喜びに包まれた。その事実は、彼に誇らしさと感動を引き起こしていた。 今まで彼女に触れた男は、1人としていないのだ…彼女と体を重ねた男は…。そこで、ハッと気づいた。
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