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裸で眠っていた薫の肌から温もりが伝わったことを思い出して、またも欲しくてたまらなくさせる。
長野は、梅雨の晴れ間の月明かりが差し込む、海辺のお気に入りのこの離れで薫を見つめた…
美しかった…そしてひどく若い…瑞々しくて魅力的だ…
まだ離れの飾り高窓から、まばゆい月明かりは差し込んでいた…黒っぽい竹製の家具が、柔かな金色に輝きやけに優雅に見える。
いや金色の輝きは、今まで腕の中にいた女性(ひと)が、放っているのかもしれない…彼女がすべてを美しく見せるのだ…
薫を初めて腕に抱いたあの瞬間(とき)を忘れるために、今まで付き合ってきた女たちに連絡を取ろうとしてみた…
それが、今まで交際してきた女たちの中でも、毎夜夢にまで見るほどの瞬間(とき)だった事実を…
充分な経験を持ちながらも、信じられないほど素晴らしかったことを、忘れるために…
いやだからこそ、忘れられなかったのだろう…他の女に関心が持てず…他のことは何も考えられなかった。
ふとしたことで蘇る薫の面影を、頭から追い出そうとした…他の女たちとも連絡を取ってみた…仕事にも没頭したが…、どの方法も薫を忘れるまでには及ばなかった。
しかし薫は…
長野は低く呻くと、薫から少し離れて想いを巡らせた…まさか避妊しないで彼女と寝るとは…他の女たちでは決してなかったことだ。
そうピルを飲んでいるというセリフは、他の女たちからも何度も聞いた。だが、頭から信じたことはなかった。
これまでは避妊具でこよなく準備をするか、その手の雰囲気になりそうなら、上手く逃げてきた…形はどうであれ、家族も足枷になるものはいらない…
快楽を選んだというより、もっとひたむきな意味で、自由を選んで来たのだ。
長野は肩越しに薫を振り返る…すやすやと子供のように眠っていた薫を思い出すと気持ちが安らいでくる…
薫が嘘をつくはずがない!彼女がピルを飲んでいると言えば、本当に飲んでいると思う。彼女は信用できる…何といってもバージンだったのだ。
それは万華鏡のような一夜の驚くべき発見だった…しかも昨夜はもっと…
蒸し暑さを感じた梅雨の一夜に、裸の彼女に覆いかぶさった瞬間(とき)のことが、また蘇ってくる…
汗ばむ体を重ね、急き立てるようにリズムを刻んだ瞬間(とき)のあの夢ごこちの表情が…。
彼の腕に抱かれながらも、自分を押し殺して、捉えどころを見つけさせなかった…
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