現在~冬~ Ⅲ

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“夜の博物館かぁ。” ちょっと行ってみたい気もする。 ダメでもともとと行ってみると、入口には守衛がいた。彼と鷹野は面識があるので、 「ごめん。大事なレポート忘れ物てた~~。」 と言い館内に通して貰った。 館内は、まだ温もりが冷めておらず外より暖かい。 シーンと静まり返り昼間の喧騒が嘘のようだ。 音もなく光るクリスマスツリーは、世界を幻想的なものに変えていた。 下からのライトで照らされた恐竜たちの骨の標本の影が、壁や天井に映し出され今にも歩きだしそうだ。  海斗は、こっちこっちと手招きされ2階の憩いスペースに連れてこられた。 全面ガラス張りでここからは博物館の庭が見える。 庭が見えるソファへと招かれ座った。 「わぁ・・・!!!」 思わず、感嘆のため息が出る。 昼間は芝とソテツとサンタや天使の飾りしか見えない。 だが今は、芝に埋め込まれた無数の灯りが星のように煌き、サンタや天使はネオンが付いてかわいく輝いている。 「いいでしょ~・・・」 ふぁぁとまたもあくびをしながら言う鷹野は、優しげな顔でソファに身を委ねている。 「・・・。これ、見せる為に、ここに連れてきたんですか?」 「ふぅぅ・・・。どう・・かなぁ~。君が、元気ないから・・・。」 「元気なら、ありますよ。」 「ふぅ~ん」 「・・・。さっきの。」 「うん?」 「さっきの、一度や二度失恋したくらいでってやつ。」 「うん?」 「酷くないです?」 「なんで?」 「一度でも本気の恋なら、それがすべてなんじゃないでしょうか? ・・・代替えの恋なんて、効かないし・・・いらない。」 「ふぅ~ん。」 そう言いながら、鷹野は海斗をぼんやりと見つめている。伝わっているのだろうか? “ふぅ~んって、この酔っ払いめ!” 「じゃぁさ。その代替えも効かない恋って、どんなの?」 「えっ?」 「ふぁぁ。夜語りに、何があったか、聞かせてよ。ーーー・・・。」 トロンとした顔で言う。 どうせ、酔ってるし、きっとこんな話、聞いても覚えてないよな・・・。 鷹野を見ると目を閉じていた。寝たのかな? 鷹野の整った顔は、今は光の加減で美しくさえ見える。 海斗は横顔をじっと見ながら言った。 「“人が人の事を愛するっていうのは”、鷹野さん、男同士・・・も含まれるんですかね?」 鷹野の目は閉じられたままだ。 はぁと溜息をつくと、海斗は庭へ視線を戻した。
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