回想  夏の記憶 Ⅲ

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勢いよく海斗に水がかかる。 「なっ、何すんだよ!」 海斗は蓮を睨みつけた。 「他の男の話、するからだよ。」 蓮は、当然とばかりの顔をする。 「おまっ、どんだけ嫉妬深いだよ!」 海斗は、怒るのを通り越して呆れてしまう。 「ほんっと、シャツもタオルもびしょびしょじゃねぇか。」 ぶつぶつ言いながらシャツの裾を握って絞っていると、蓮の手が伸びてきた。 「な、なに・・・」 手は海斗の濡れたシャツの上から胸をなぞる。海斗はフルっと背筋がなった。 「なんか・・・透けててエロイ・・・」 蓮の目は、色気を含ませて海斗を見つめている。 ー!!!!!ー 「誰がしたんだっ、バカヤロー!!!」 海斗は濡れたタオルを蓮に思いっきりぶつけると、ドカドカとその場を去った。 「おっと・・・」 ぶつけられたタオルを拾い上げる。 “怒った顔もまたいいんだけど。” 蓮は、その後ろ姿を愛しげに見つめながら思った。 “信じらんねぇ、信じらんねぇ、信じらんねぇぇぇ” 海斗は恥ずかしくなって顔を真っ赤にしながら、着替えのシャツを取りに部室へ行った。  朝練が終わり、メンバーはぐったりとなりながら、それぞれ学校を後にする。 「海斗、今日もうち来る?」 最近は、朝練が終わり昼をどこかで食べた後は、蓮の家に行くことが多くなった。 蓮の家は、数人のお手伝いさんがいる程、立派な家だが蓮の両親にあった事は今までに一度もない。 仕事が忙しいのだそうだ。 「うん、宿題持って行く。一緒にやろうぜ。」 海斗の家も両親は共働きだが、父親は技術者で今は海外出張をして家にはいない。 二人共、親の不在に慣れっ子だった。 「じゃぁ、ばぁちゃんに、昼飯作ってもらおうか?」 「いいねぇ、吉川さんの料理、俺好きだ。」 蓮の言う“ばぁちゃん”とは、吉川さんというお手伝いさんで血の繋がりはない。 だが多分、蓮は家族よりもこの人に一番心を許している。 携帯を出すと、しばらくして繋がった様だ。 「あぁ、ばぁちゃん?俺。今日さ、海斗も来るから昼飯2人分頼むわ。うん。うん、わかった。じゃね。」 通話を切ると、 「焼き飯でいいかってよ?」 「おぉ!俺の好物じゃん!」 「ばぁちゃん、海斗の好みもリサーチ済かよ。」 海斗と蓮は、フフフと笑い合いながら昼食を楽しみに帰り道を歩いて行った。
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