回想  夏の記憶 Ⅲ

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 海斗と蓮は、蓮の家の広々としたリビングのソファに並んで座っている。 弾力があってゆったりと座れるこのソファは、何事もなければ随分寛げたであろう。 目の前には蓮の母親が腕を組んで座っていて、その顔は少し青ざめている。 海斗は、初対面の蓮の母親に対する居心地の悪さと、隠していた関係がばれた事による後ろめたさを感じていた。 「あなた達、部屋であの様にふざけるのは、良くないと思います。今後は謹んでいただかないと。」 視線は、斜め横を向いていて、二人に視線を合わせようとはしない。 どうしたものか、困惑した様子がその態度に現れている。 蓮は、そんな母親を正視しながらきっぱりと言う。 「ふざけてなどいませんし、今後もやめる気はありません。僕たちは本気です。」 「蓮、あなた何を言っているの?そんな事が許されるはずがないでしょう!」 蓮の母親は、彼を睨んで怒鳴りつけた。 だが、蓮は怯む様子など見せない。 「何を言うかと思えば。今まで、息子に手料理ひとつ食べさせたことがないくせに、今更、親の顔で説教なんて辞めてください。 これは僕の恋愛で、僕の事情です。恋をするのに誰の許しがいるんです? そんな事までお母さんに干渉されたくありません。」 海斗は、ずっと蓮を見ていた。 それは、海斗の知らない蓮の顔だった。 タメ口じゃない蓮なんて、見たことない・・・。 先生にも、先輩にも、目上の吉川さんにも滅多に敬語を使わなかった。 時に敬語を使わないのはどうかと思ったけれど、でも今は逆に尊敬というより隔たりを感じる。 “どれだけ、寂しい思いをしたんだろうな。” 海斗は胸が苦しくなった。 「そんな事、大人になってから言いなさい!それに、蓮、あなたはこの家を継ぐ唯一の息子なのよ。 あなたが継がなくて・・・誰が・・・誰が次の後継者を残すの?」 それを聞いた蓮は冷めた目で言った。
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