回想  夏の記憶 Ⅲ

8/25

150人が本棚に入れています
本棚に追加
/125ページ
 蓮の家では、夜になり父親が帰って来た。 昼間は、海斗と一緒だったソファは今は一人で座わり、反対側には両親が座っていた。 『ちょっとここに座りなさい。』と母親に言われ座った時は、父親に一発殴られる覚悟だった。 だが、殴る様子は見られずに、父親はただ黙って座ってる。 昼間の事は母から聞いているのだろう。 「あなたからも、男性とお付き合いすることを辞めるように、仰って頂けませんか。」 母親は、業を煮やして父親を急き立てた。 「僕は、本気で海斗の事が好きなんです。この気持ちは、誰にも止められるものではありません。 だから、どうか僕の事は諦めてもらえませんか?」 堂々巡りの様なこんな会話をずっと続けている。 ここで折れては負けだが、もう心底うんざりする。 黙っていた父親は、ようやく口を開いた。 「蓮、明日から2日間、私と共に来なさい。」 それだけ言うと、彼は自室へと向かった。 「ちょっと、あなた!!」 母親は、明らかに動揺しているようだ。 「何とかしなければ・・・何とか・・・」 彼女は思い詰めたように、ブツブツと繰り返すばかりだった。  翌日、蓮は父親に連れられ、彼の所有する土地やらビルやらマンションやらに連れて行かれた。 その日は遠くまで来た為、家に帰れずに母親が各所で経営するうちの、一軒のホテルに泊まり豪華なディナーを食べた。 次の日には、今度は都心へ戻り父親の経営する会社に案内された。 最終目的地の社長室に通されて、黒張りのソファに腰を降ろした蓮は、疲れた顔で天井を見ながら言った。 「あなたの仰りたい事は、分かっています。前にも一度同じことがありましたから。」 「そうか?」 父親、ここでいう社長は優雅な社長椅子に座り、机に手を組んで座っている。 「“お前は、この2日間で見たすべての物を手に入れることが出来るのだぞ。”そう言われました。 “だから、行動を自重せよ”と。とても分かりやすい説得でした。」
/125ページ

最初のコメントを投稿しよう!

150人が本棚に入れています
本棚に追加