回想  夏の記憶 Ⅲ

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「あの時は、なんでそうなったのだったかな?」 父親は、懐かしそうに言う。 「あの時は、僕が私立の中学でなく、市立の中学に行きたかったのですが、お二人から反対されて家出をし、連れ戻された時にそう説得されたのです。」 「ふむ、昔から無茶ばかりやりおるな。だが、市立に通った。」 「中学では、バスケで全国へ行きましたから。それが市立に通う為の約束でした。」 「あぁ。そうだったか。」 「・・・。」 二人の間に沈黙が訪れた。 「昨日・・・。お母さんに、“誰が後継者を残すの”と言われました。“それは、女性のプライドですか?”と言い返すと、頬にビンタをされました。」 「はぁ。また、なんでそんな事を言うんだ。」 父親は困惑顔で言う。 「その話の時に・・・海斗が傷ついた顔をしたから・・・。」 母親にそう言うと怒るだろう。だが分かってて煽るような事を言った。 「まったく。それでは母さんにビンタを張られてもしかたないぞ。」 蓮は、この部屋に入って初めて父親をまっすぐに見た。 「僕は、このビンタは、とばっちりだと考えています。」 ん?とした顔で父親は蓮を見た。 「僕が男を好きだと言っても、あなたがお母さんより焦ってないのは“悟”がいるからでしょう?」 「・・・。」 「いざとなれば、悟を正当な後継者にすればいいとお考えなのでは? でも、そうなるとあなたが持っているすべての富を愛人の子に取られるとお母さんは考えている。 “愛人に全てを奪われた哀れな正妻”それが、あの人のビンタの本当の理由だと思っています。」 「なかなか手厳しいな。」 「でも、僕は財産より自由が欲しい。」 「何が言いたいのかね?」 蓮は、感情が読み取れないような顔で父親を正視した。 「僕が、昨日今日と見てきたものを、全て悟に譲ると言えば、あなたは僕に自由をくれますか? それくらい、僕は本気です。」
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