回想  夏の記憶 Ⅲ

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「ほう。」 蓮の父親は、机の上で組んでいた手を解き、椅子の肘掛へと移した後、その身を椅子の背凭れへと委ねた。 「蓮は、私と駆引きをするのかね?」 父親は、先ほどから余裕の顔だ。 「駆引きだなんて、僕はただ、僕自身が自由になる理解と了承を乞いているだけです。」 蓮は、まだ父親を見据えたままだ。 手持ちのカードは全部切った。 後は、もう押し通すか、それとも・・・。 父親は、ふうんと言ったっきり、何やら暫く考えていた。 静まり返った部屋には、僅かに動く空調が聞こえるだけだ。 蓮は、その時間が、とても長く感じた。 ようやく父親が大きなため息をしながら、組んだ足を組み替えて言った。 「ふむ。お前の揺らぎ無い気持ちはよく分かった。」 その言葉を聞いて、蓮が身を乗り出した。 「では!!」 もしかしたら、叶うかも知れない! 「まぁ、待て。」 蓮は嫌な予感がして、額に手を当てた。 「なんだと言うのです?」 蓮は、ものすごくイライラした。 「財産と引き換えに自由をくれとお前は言うが、まぁ、悟の件に関しては、私がお前たちに迷惑を掛けたのだ。済まないと思っている。 だから、という訳ではないが今回はお前にチャンスをやろうと思う。」 「チャンス?」 「そうだ。ビジネスに置いては、交渉が大事な場面も多い。 お前も鍛え上げれば、何とかなりそうじゃないか。」 “なんだか怪しい雲行きだ。このオヤジは、俺に何をさせようって言うんだ?” 「お前・・・アメリカへ行って勉強して来い。」 「はっ???」 “何の事を言ってるんだ?この色ボケおやじ!” 心の中で、散々悪態をつく。 「何故、アメリカなのです?」 「ヨーロッパでも良いが、お前はアメリカの方が向いている気がするな。」 どこにも向いていない。第一、日本語以外喋れない。
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