回想  夏の記憶 Ⅲ

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蓮は自分の部屋のベットに仰向けに寝転んでいた。 あれから父親と別れ、送迎の車に乗せられ彼一人で家に帰ってきた。 家には、まだ母親がいたが顔を合わせぬように急いで自室へと戻ると部屋に鍵をかけた。 “あの時も、鍵をかけておけば良かった。” 蓮は目を閉じた。 ベットに左手を広げるとシーツを優しく撫でる。 “ここに、海斗がいた。” 右手は、自分の左肩に乗せさすった。 そこは海斗があの時、震えながら握った場所だ。 今もはっきりと、その感覚を覚えている。 “海斗の手は、ここにあった。” ふぅと溜息を出すと、目を開き天井を見上げた。 携帯は取り上げられた。 家は、普段はいないくせに今は母親が見張っている。 これでは外出も出来やしない。 「どうすればいい?」 蓮は一人つぶやく。 これでは海斗の声も聞けない。 すぐにでも会いたい。 どうしてるのか、すごく気になる。 大丈夫かな。へこんじゃいないかな。 帰る時の、海斗の顔を思い出して不安が込み上げてきた。 ものすごく、落ち込んでいたから。 「海斗・・・。」 アメリカなんかに行きたくない。 今、会えない事でこんなに辛いのに、アメリカに行ったらもっと続く。 今すぐに会いたい気持ちが俺を変にしそうだ。 どのくらい、居なきゃならないんだ? 1年?2年?・・・ 下手すると父親のいう25歳までかかるかも知れない。 「嫌だ。」 父親は、蓮が社長室を出る時、最後に彼にこう告げた。 「もし・・・。万が一、お前が25歳になってもどうしようもなかったら、その時は、この家の“駒”になってもらう。」 「駒?」 「そうだ。お前の意志には関係なく、お前の事を決めさせてもらう。 相続も、会社も、結婚もだ。お前の自由は無いと思え。」 思い通りに生きられない。 結婚・・・。 夢も恋愛も出来ないって事か。 そうなったら、俺は何の為に生きているのだろう?
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