回想  夏の記憶 Ⅲ

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二人は中庭へ移動した。 中庭は、花壇があり、夏の花々が咲き誇っていた。 「これって・・・お見合いなんですかね?」 蓮は、一応確認をとってみた。 「そうよ?聞いてないの?でも今日の相手があなたで良かったわ。」 斎藤さんが蓮を見て、にこりと笑いかけながら言った。 「それは、どうも。」 「どんな強面がくるかと思ったの。でも、まぁ、あなたなら、悪くない感じかな。」 相手は年上なのでタメ口だ。 「俺は、申し訳ないけどあなたとは、お付き合いする気なんてさらっさら無いんですが。」 「あらぁ、はっきり言うのねぇ。」 斎藤は、面白そうな顔をして蓮を見つめた。 「出来れば、あなたから断っていただきたいのですが。」 「それは無理よ。」 「なんでですか?」 「あなたのお母様の経営するホテルの融資を、うちの旅館が受けることになってるの。業務提携とかいってね。」 “あのババア!先方が断れない相手を探して俺に見合いをさせたっていうのか!” 「だから、私から断りを入れるのは無理なのよ。」 「・・・。斎藤さんには・・・」 蓮は、斎藤を睨み付けながら言う。 「えっ?」 「斎藤さんには、好きな人とかいないんですか!?」 彼女は蓮の気迫に面喰った。 「・・・いるわよ。」 困った顔をさせる気はなかった・・・。けど、斎藤さんは、少し諦め顔で言った。 「いるけど、どうしようもない事だってあるじゃない?」 「・・・。」 答えは決まった。 “断れないのなら、俺がぶち壊せばいいんだよな?” 「斎藤さん、なんだか顔がテカってますよ?化粧室で直してきた方がいいんじゃない?」 斎藤は、驚いた顔をしたが、目を少しだけ細めると、 「そうね、私はしばらくお化粧室へ行って、化粧を直してくるわ。」 そう言いながら、斎藤は中庭を出てホテルに戻った。
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