回想  夏の記憶 Ⅲ

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「アメリカか・・・。」 蓮は、遊歩道を歩きながら考えていた。 あの時、チャンスをやろうと父親は言った。 ならば今回のお見合いには、父親は、関わっていない可能性が高い。 なぜ海外なのかと問うた時も、そのうち分かるとも言っていた。 ひょっとすると父親には母親の考えていることが解かっていたのだろうか? だとしたら、普段ほとんど顔を合わせないのにお互いの事が解るとは、夫婦だからか、それとも互いが策士だからなのか・・・。蓮には理解が出来なかった。 どっちにしても、今回の事は父親に確かめてみる必要がある。 黙々と歩いていると、少し見晴らしのいい場所に辿り着いた。 「ん?」 見える景色がどうも思っていたのと違う。 「あれ・・・あれがホテル・・・」 見ると隣の山の山頂にホテルが見えた。 あの遊歩道は隣の山へ続くものだったらしい。 「どうやら、見当違いな方向に来ちまったなぁ・・・。」 戻ろうかとも思ったが、その道の先も見てみたかった。蓮は先に進んだ。 昼に山頂のホテルを抜け出し、今は夕日が傾いていた。 蓮は、海岸線のバス亭に備えられた長椅子に座っていた。 長い夏の日の太陽が沈もうとしている。 時刻表を見るとバスの最終は出てしまった後だった。 「はぁ~~~」 蓮は長い溜息をついた。 さすがにもう歩けない。 携帯もないので、誰にも連絡が取れない。 ここがどこだか、さっぱり解らない。 くたびれたジャケットを脱ぎ、シャツをまくった。 その身に残ったのは、無力感だけだ。 蓮は、バス亭の長椅子から腰を上げると、車道の向こう側に広がる砂浜へ歩いて行った。 昼間は海水浴をする客がいるのだろう。だが、今は蓮一人だった。 打ち寄せる波が、地球の鼓動のような響きを立てている。 やがて夜が訪れ、夜と海の境を消し去るとそこに一つの空間を生み出した。 空には星が出ていた。 手を伸ばしてみたが、届く筈などない事はとっくに承知の上だ。 星だけじゃない。 居場所も。 家族も。 自由も。 未来も。 そして、海斗も。 なにも、手に掴めない。 もう・・・ダメだ・・・。 夜が蓮を不安にさせる。 何かに負けた・・・何に負けたのかな・・・。 蓮はもう空は見れなかった。 彼は心が折れてしまった。
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