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「大事な人が・・・いるのに。俺は・・・その人を置いて行こうと・・・思い始めてるんです。
俺は、今の俺に自信が無い。一人じゃ何も、・・・・その日の食べる事さえ自分で出来ない・・・タダのどうしようもない男だから・・・。そのうち、あいつを傷つけて、いや、もう傷つけてるなぁ・・・
はは・・そんな自分が情けない。」
蓮は泣き出しそうな顔で、お婆さんの方を見た。
「あなたの、握り飯は、俺の傷を・・・心を・・・癒してくれました。
あいつにも、こんな風に傷が癒せる瞬間が、来てくれると・・・願って・・・俺じゃダメだから・・・」
俯き涙を堪えた蓮の背中を優しくさすってくれた手は、一生忘れないだろう。
「急がば、回れ。いつも目の前に真実があるとは、限らないんだから。時には回り道もするべきだよ。
それにね、どんなに最悪の選択をしなくちゃならなくても、その先には“そこにしかない幸せ”も、ちゃんとあるもんだよ。」
ほっほっほとお婆さんは優しく笑いながら言った。
店の前に黒塗りの高級車が止まり、中から一人の男が降りてきた。
蓮の父親だった。彼は、店内をぐるりと見渡しカウンターにお盆とお皿とお茶、息子の顔に米粒がついているのを見ると、
「息子が大変お世話になったようで、ありがとうございました。」
とお婆さんに深々と頭を下げた。
「いえいえ、お構いもなく。」
お婆さんは笑っている。
「ありがとうございました。」
蓮は、お婆さんにお礼を言って店を出た。名残惜しげに、いつまでも蓮は手を振った。
(後日、そのお婆さん宛に高そうな水菓子が届けられたのは父親の気配りだ。)
車の中で蓮は、父親から携帯電話を返された。
「母さんが、持っていたようだな。」
蓮は、携帯を見つめながら言った。
「お見合いの話。あなたは、知ってたんですか?」
「いや。知らなかった。思ったより、母さんの行動が早かったな。」
やはり父親は絡んでなかったようだ。
「アメリカに行けば、少なくとも25歳までは、その辺りは保障されるんですよね?」
「あぁ。」
「俺、決めました。留学します。」
蓮の父親は、彼の顔をじっと見ていた。
「俺は、強くなりたい。」
「うむ。」
蓮の父親は頷いて、少し笑っていた。
息子は、きっと大きくなる・・・そんな予感が彼にはしたのだ。
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