回想  夏の記憶 Ⅲ

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 蓮は、携帯を撫でていた。表示された番号の先は、ボタン一つ押せば海斗に繋がる事ができる。 「お父さん・・・。海斗に、会いたいのですが。今から寄ってもらっても構わないでしょうか。」 「うむ。わかった。」 父親は頷いた。 蓮は、携帯の発信を押した。胸がドキドキと高鳴るのと同時に息苦しくもあった。  海斗は、吉川さんからの電話を切ったばかりだった。 鳴りだした着信音に、びくりとした。 「今度は、誰だ?」 北山がアイスカフェモカの残りをずずっとストローで吸い込みながら聞いてきた。 海斗は、着信の表示を見ると、我が目を疑った。 「蓮だ・・・。」 慌てて電話に出る。 『蓮か?無事か?今どこにいるんだ?』 蓮は深呼吸をした。今までずっと聞きたかった海斗の声だ。 『海斗。俺は大丈夫だよ。』 海斗は、蓮の声に携帯を持つ手が震えた。 “電話の先に蓮がいる!” 『ばっか!家に帰ってないって聞いて心配したんだぞ!』 『ごめん。』 数日しか経っていないのに、蓮の声はすごく懐かしかった。 『俺は、今、親父の車の中だよ。海斗の方こそ、元気だったか?』 『元気なわけ、ねぇだろうが!』 受話器に耳ををくっつけた北山が横から言っている。 『北やんいるのか。お邪魔虫め。でも、いいや。そこは、どこなの?』 『駅前のコーヒーショップだよ。』 『わかった。今から会いたいんだ。海斗。そっちに行ってもいい?』 海斗は目を見開いた。 『あぁ・・。あぁ!俺も会いたい!』 暫くすると、コーヒーショップの駐車場に車が止まり蓮が降りてきた。 「蓮!」 くたびれた格好の蓮に、海斗が駆け寄った。 「海斗!」 蓮は大きく腕を広げると、海斗を抱き締めた。 「海斗。会いたかった。」 久しぶりの腕の中の海斗に、蓮の決心は揺れ心乱される。 “あぁ・・・” 海斗も、腕を伸ばして抱き締め返した。 「俺もだよ。蓮。お前に会えなくて辛かったんだ。」 その言葉が蓮の胸を締め付けた。蓮は海斗から体を離した。 「ちょっと、場所を変えようか。」 二人は、駅前のコーヒーショップから歩き、いつか見た花火の会場の海岸へ向かった。 海岸は夏の日差しが照り付け、潮風が体を通り過ぎていく。 大きな船が汽笛を鳴らしながら沖へと向かい、その姿はだんだん小さくなっていった。 花火大会はつい、この前の事なのに遠い昔のように感じてしまうのは何故だろう。
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