151人が本棚に入れています
本棚に追加
~現在 冬~
大きな全面ガラスの窓の向こうのイルミネーションを見つめながら、海斗はつぶやくように淡々と話す。
「俺は、後日、蓮の事を吉川さんからすべて聞きました。
蓮と彼の父親のやりとりやら、母親のお見合いの事。
彼の弟の事もすべてです。俺の想像以上に蓮は、俺の事を想っていたんだ。
何も出来ない俺は、すごく情けないやら悔しいやら自分にとても腹が立ちました。
俺は、あいつと共に悩んだり、戦ったりしたかった。
蓮の隣で、少しでも気持ちを楽にさせてやりたかった・・・。
でも・・・変える力は何一つ無かったんです。」
館内の空気は少しずつ冷えてきているようだ。
寂しい気持ちが更に身を寒くする。
海斗は鷹野から借りマフラーにフーっと息を吹きかけた。
「蓮が、アメリカに立つ日。俺は空港であいつに言ったんです。
『最初っから“あの関係”は興味本位だけだった。だから、お前の事は、忘れてやるよ。』って。」
今でも思い出すと辛い。
でも、きっとこれで蓮は、リスタート出来る。
“俺だって、蓮、お前の事を想ってるんだ。”
「でも・・・。」
顔を伏せると涙がこぼれそうだ。
「蓮のいない生活は、思った以上に俺には辛くて・・・。バスケは特に・・うぅっ・いつも蓮を探して・・・
・・・分かっているのに、パスが出せなくて・・っく・・」
何度も何度も行き交った二人のパス。
コートのどこにいても、蓮のいるとこは・・・わかっていたのに。
海斗は唇を噛みしめた。
その時、海斗の冷えた頭に大きな手が添えられた。
「ー・・鷹野・・さん」
困ったような優しい顔が、そこにあった。
「そして、君だけが時を止めたのかい?」
「いつから・・・起きていたんですか?」
「最初から。」
「全部・・・聞いて?」
「あぁ。」
鷹野は、優しく海斗の頭を撫でた。
「泣きたいんだろう?思いっきり泣いたらいいよ。」
そう言って、鷹野は海斗は抱き締めた。
凍えた身に鷹野の体温は、安堵感を与えた。
求めていたひと肌。
“もう、思いっきり泣いていい?”
「くっ・・・うわぁぁ」
海斗は、鷹野の胸を借りて泣いた。
「もう、大丈夫。もう、君は心のままにしていいんだ。」
鷹野は、抱き締めたまま、小さな子供をあやすように何度も繰り返した。
最初のコメントを投稿しよう!