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グス・・・グスグス・・・
静まり返った館内に、海斗の鼻をすする音だけがする。
「落ち着いたか?」
鷹野は、海斗の頭をまだ撫でていた。
ひとしきり泣くと、海斗は何だか恥ずかしくなってモゾモゾし始めた。
「もう、大丈夫です。」
そう言うと、自ら身体を離した。
「そうか。」
鷹野はにっこり笑って、立ち上がった。
「夜も更けてきたし、遅くならないうちに帰るとしよう。」
海斗は名残り惜しかったが、鷹野に続いて立ち上がった。
二人が博物館を出ると、外は雪が降っていた。
「とうとう、降ってきたかぁ。」
鷹野は、白い息を吐きながら雪を見ている。
タクシーをつかまえる為、二人はバス通りまで歩く事にした。
「積りそうにはないが、今日は一晩中降りそうだなぁ。
子供の頃は、雪が降ることが楽しかったのに、今では寒いばかりだ。
いつから、そんな面白くない大人になったのかな。」
「そうですね。俺も今は雪が降ってもあんまり楽しくは・・・っ、さむっ」
海斗は突如吹いた北風に体を震わす。
「フフ・・。--雪宮君。」
鷹野は笑いながら立ち止まって、海斗の方に何か差し出している。
「何ですか?」
鷹野は笑ってばかりだ。
「メリー・クリスマス」
鷹野の手の中にあるのは石だった。
「?」
「ほらっ。プレゼント。」
「えっ?」
戸惑う海斗の手のひらに、鷹野は茶色の透き通った石を置いた。
「なんだよ、石かよっ子供じゃねんだぞって、顔に書いてあるぞ。」
鷹野は、クスクス笑って言った。
「えっ、いや、そんな事は・・・ありがとうございます。」
石は鷹野のポケットで温められていたのか、ほんのり暖かい。
「アンバー。和名で琥珀。」
「へぇ、綺麗ですねぇ。」
「街灯の方に透かして見てごらん。」
言われたとおりに透かして見ると、石の中に何かいる。
「何だろう?虫?」
「羽虫が入ったんだな。」
「どうやって?」
「琥珀は数千万年から数億年前の樹木の樹脂が土に埋まって出来た化石なんだ。」
「樹脂?」
「そう、樹脂に引き寄せられ、閉じ込められた虫がそのまま石になったんだよ。」
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