銀灰の護り人

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 そしてコホコホと乾いた咳をする。  青白い顔。  「…病気なんじゃ…? 」  「違うよ? ちょっと風邪が長引いてるだけ」  少年が体を強張らせて拒絶の笑みを向けながらそう言ってきてリュカは黙った。  病気だと言えば仕事がなくなる。…リュカはもう言わないから、と小さく頷くと少年はほっと体の力を抜いた。  人の事を心配しても仕方ない。自分だってもうどこにも逃げ場所も行く場所もないのだ。きっとそんな人ばかりがこの馬車に乗るのだろうから、何を言っても無駄だ。  仕事があって食事がついて給金がつく。  それだけでもありがたい。たとえそれが本当に微々たる給金であっても、だ。  過酷だと聞いていてもそこに頼るしかない人ばかりが集まってくるのだ。  馬車は寄る先々で疲れた人を乗せ、人が溢れて落ちそうな位に膨れながらも道を進んでいった。  リュカの小さな体も荷車の上で立ちながら、そして押しつぶされそうになりながら必死に耐える。  世界の真ん中に大きく存在する聖なる山。  聖なる山の一番天辺に剣が一振り落ちて世界が七つの国に分かれたという伝説だ。  でも誰もそれが本当かは知らない。  伝説の剣を求めて山に入る命知らずは過去から数えて何千人といるらしいけれど誰も帰ってきた人はいないのだ。  頂上には常に雪が積もり近づけば近づくほど天辺は見えなくなる位に高い山だ。  その山は聖なると称されるためか、色々な鉱石が出るらしい。全部の国に跨る聖なる山のその国によって出る種類の鉱石は違うらしいが、聖なる山によって恩恵を受けている。  アストゥール国でもその通り。そして発掘されたそれらは全部王家の物だ。  それはどこの国も同じらしい。  リュカが知っているのはこの程度の事でしかない。  息の詰まるような馬車で何日もかかりやっとその鉱山に到着した。  到着してすぐに固いパンをひとかけらずつ手渡され、出身の村と名前を聞かれ記されていく。  多くの者は学を受けたこともないので字の読み書きが出来ない。リュカは両親に教わり最低限の読み書きは出来たが、それが役立つなんて事はなかった。  どうして農民の両親が読み書きが出来たのか?  それも謎だ。
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