第2話 彼が会社を辞めない理由

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「コーヒーでも淹れましょうか」 「いや、俺はこのまま事業部長のところに行ってくるから……」 「わかりました。社長には、少ししてからお持ちしますね」 「悪いな、いつも……」 比呂斗と俺が声を荒げるのはままあることで、八木にしたらいい迷惑だろう。 社長室はある程度の防音が効いているとはいえ、あれだけ声を荒げれば隣の部屋だ、少なくとも怒鳴っていることは分かるに違いない。 「大丈夫です。社長にはチョコレートも付けときますから」 おどけたように小さな菓子を持って笑う八木は、大した女だと思う。 「頼む」 俺は小さく頭を下げて、足早に事業部に向かった。 急なアメリカ出張から帰国して1週間。 八木という優秀な秘書が日本にいたお蔭で、仕事は滞りない。 とはいえ、3週間も不在にしていたのは事実で、大きな問題はないものの、日々瑣事に追われるまま時間だけが過ぎてしまっていた。
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