第2話 彼が会社を辞めない理由

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「ああっ…………」 頭をガンッと壁にぶつけ、天井を見上げる。 あの、アメリカの夜は幻みたいだ。 「…………夢、だったのかな」 まるで無かったことみたいに、日本に帰ってからは普段通りの日常。 比呂斗の態度は1ミリだって変わらない。 これじゃ、俺を慰留するためにあんなことしたみたいじゃないか。 …………いや、そうなのかもしれない。 それだけは考えたくて、見ないふりをしていたけれど、あのどさくさで変わったことと言えば、俺の退職話が無くなったことだけだ。 「結局、そういうことなのかよ…………」 俺はずりずりと背中で壁を滑り、力なくそこに座り込んでしまった。
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