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八木の後ろから腕を伸ばし、ドアを大きく開け放ったのは比呂斗で、さっきの続きのように俺を睨みつけるとそう告げた。
「こっち?」
顎をしゃくる比呂斗に、俺はゴクンと唾を呑みこむと足を踏み出した。
「あ、もう定時過ぎたから八木ちゃんは帰ってね」
「はい、お疲れさまでした。お先に失礼いたします」
礼儀正しく頭を下げる八木に、比呂斗は同じ人物とは思えないほどふんわりと笑うから、思わずカッとなって拳を握り締めた。
何だよ…………あんなに優しい顔もできるのにッ…………。
さっさと荷物をまとめた八木は、俺に申し訳なさそうに会釈をして出て行く。
それを見送り、俺は覚悟を決めて社長室に入った。
比呂斗がどういうつもりにしろ、俺は向き合わなくちゃならない。
少なくともまだ俺はここの社員なんだと、ふと手元に握り締めたままの書類を目にして自分の立場を思い出す。
「失礼いたします」
つい先ほどまでいたはずの社長室なのに、違和感…………。
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