第2話 彼が会社を辞めない理由

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「いいからそこにいろよ」 比呂斗は素っ気なく言って、自分のデスクにさっさと戻る。 PCを開き、仕事を再開した比呂斗に言い返す気も失せ、俺は溜め息と共にデスクについた。 手にしたままだった書類を片手に報告書を仕上げる。 一心に仕事をしているつもりだったが…………同室にいる比呂斗が逐一気になって仕方がない。 比呂斗はこっちのことなんか、まるで気にしていないというのに。 それにまた一人イラついて、力任せにキーボードに指を叩きつける。 悔しさに奥歯を噛みしめながら必死で仕事をしていたら、いつの間にか集中していたようだった。 「…………まだかかんの?」 「え?」 ふと見上げればPCの上から比呂斗が覗き込んでいる。 思わぬ近さに、さっと身を引いてしまった。 「…………そうですね、もう少し」 そう告げて、視線をキーボードに戻す。
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