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「あっ、あそこ空いてますよ!」  辺りを見回しながら歩いていると、端っこの方だけど一番前が空いていて、真田さんの返事を聞く前にそこに向かう。 「空いてて良かったですね」 「そうだね。すごいよく見えそう」  隣に座った真田さんが嬉しそうで、私ももっと嬉しくなってしまう。 「楽しみー! お母さん、まだかな?」 「もう始まるから。もうちょっと待ってようね」  隣からそんな声が聞こえてきて、何気なくそっちに目を向ける。  お父さんとお母さんと幼稚園くらいの女の子が二人、待ちきれないのか二人で足をぶんぶん振っている。  不意に、昔家族みんなでイルカショーを見に来たことを思い出して、胸が軋む。  今日だけ。今日だけだから……。  ぎゅっとワンピースの裾を握った。
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