6/24

134人が本棚に入れています
本棚に追加
/24ページ
 真田さんに対して感じた不思議な感覚が、ずっとがんじがらめになっていた気持ちを解けさせた。  彼に対して疑問を持つと同時に生まれた、今すぐ動かないと消えてしまいそうなほどの、微かな決心。  それを揺らされるカタチに、出鼻を挫かれた状況になっているのに、正直なところ、とてもほっとしていた。  この期に及んで、まだ私は真実を知る覚悟が出来ていない。  自分の過去を知る覚悟が。  土曜日の水族館は、家族連れとカップルで溢れていて、四方八方から楽しそうな声が飛び交っている。  場違いな思いを抱えている私を、その楽しそうな空気が包む。  居心地の悪さを感じながらも、今日は、今日だけは、全て忘れて楽しんでもいいんじゃないかって。楽しみたい、と思った。  もしかしたら、もう二度とこんなことはないのかもしれないから。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

134人が本棚に入れています
本棚に追加